25人の白雪姫

「に、25人ですか?」
「そう、25人の白雪姫を殺してほしい」


狩人は困惑していた。


この国で最も腕が立つ狩人が謁見の間に呼び出され
「この度は再びお招きいただき、恐悦至極です」
とうやうやしく感謝の言葉を述べている裏腹、こわばった顔の内心では乱心の女王にまた無理難題を命じられるのかと戦々恐々としていた。
以前に女王が北の森に住むという伝説の白いイノシシを見たいからと、獰猛なその野獣を捕らえるため3ヶ月もの間、山中をさ迷った挙句 苦労して生け捕りにし、御前に持ち帰ったにもかかわらず「あぁそんなこともあったわねー」の一言で済まされたことを思い返していた。
また真っ白なカラスを射止めよ、と言われたときは国中を探し回ることになったし、ああ「縞の無いシマウマを捕らえてくるのだ」のときはただの白馬を用意するだけでよかったなぁ……


「わらわは最も美しい女、そのわらわよりも美しい者は許せぬ」
「肌が透き通るほど白く美しいと評判の女……白雪姫と呼ばれておるらしい」
「鏡によると、その女がわらわよりも千倍も美しいと言うのだ」
やれやれ、また白か。
女王の美白主義にはため息が出る。っていうか鏡ってなんだ?


「そやつを亡き者とし、その証拠として肝を持ち帰ってくるのだ」
……どうせ、その命令もすぐに忘れてしまうに違いない、ならば一時的にいずこへとかくまうのがいいだろう。持ち帰るのが首や耳であればどうしたものか迷ったが、肝であればクマを仕留めその肝でどうにか誤魔化すこともできる。ただ逃げた先での暮らしは心配だが、女王に疎まれるほどの器量良し、ともなれば良い縁談にも不自由はせずに済むであろう。
気の触れた女王の気ままのために若い命を散らすのは忍びない、狩人はその白雪姫を助けることを決心した。


「承知致しました。娘1人を殺めるなどは容易いこと、必ずや成し遂げま」
「1人ではない!」
「は?」
「白雪姫は25人いるのだ!」




25人の白雪姫はなるほど、いずれも美人揃いだった。それぞれに事情を話し、ひとまず森の中にかくまうことにする、知り合いの7人の小人たちならばなんとかしてくれるだろう、……25人の世話はさすがに骨が折れるだろうが。


問題は肝だ。そしてクマだ。もちろん肝は1頭に1つ。
クマ自体はさほど恐ろしい動物ではない、警戒心が強く狩りの途中に出くわしても向こうから逃げていくほどの臆病な生き物である。しかしそれはあくまで自分に危害が及ばない場合に過ぎない。標的として狙われていると察知すれば、猛然と向かってきてその巨躯から繰り出される一撃でこちらがやられてしまう。
1頭ならばまだしも。それも25頭のクマ!


25人の白雪姫を助けるため、たった1人で25頭ものクマに立ち向かう男の物語はそこから始まることになる。

着想

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