スクリーンリーダーのシェアを調べた研究報告書の紹介

一般のブラウザのシェアについてはStatCounterNetMarketShareといった調査サイトで情報を公開しており手軽に調べられるのですが、視覚障害者が使用するスクリーンリーダーの利用状況については絶対数が少ないこともあってかなかなか調査しにくく実態が掴むのは容易ではありません。
どういった環境を使うことが多いのか?例えばOSやバージョン、よく使われるスクリーンリーダーなど。
そういった点について、調査を行った研究報告書が公開されているのでその内容を一部抜粋して紹介していきます。

簡易目次


はじめに

視覚障害者の携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコン利用状況調査2013 - 新潟大学学術リポジトリ
スクリーンリーダーについての研究報告書についてはこちらで公開されています。*1
この調査を行った渡辺哲也准教授は定期的に同様の調査を実施されており、過去には2000年2002年2007年の調査もあります。ここでは2013年の資料を元に、主にインターネットの閲覧環境について見ていきましょう。

調査の内容について

報告書の第2章から調査の方法について

1.手順
調査の実施は,中途視覚障害者の雇用継続を支援するNPO 法人タートル(http://www.turtle.gr.jp/)に委託した。タートルは,視覚障害者が主に参加する47 のメーリングリストで回答者を募集した。



調査時期は2013年(平成25年)9月〜11月。


続いて調査の結果について、第3章から

第1節 回答者
全回答者数は304 人となった。
性別は,男性199 人(65.5%),女性105 人(34.5%)と男性の割合が高かった(図3-1-1)。
年齢分布は40 代〜60 代が過半数を占め203 人(66.8%),次に多かったのが20 代〜30 代で79 人(26.0%)を占めた(図3-1-2)。平均値は48.2 歳となった。

年齢分布はこのような感じですね。

年代人数割合
10代51.6%
20代3611.8%
30代4314.1%
40代7223.7%
50代6320.7%
60代6822.4%
70代144.6%
80代10.3%
90代10.3%
不明10.3%



そして、見え方の状況について

視覚を使った文字の読み書きができるかどうかを尋ねたところ,114 人(37.5%)ができると答え,190 人(62.5%)ができないと答えた


この点については少し説明が必要かもしれません。
なぜなら 視覚障害者は全く目が見えない と考えてる人も多いのではないでしょうか?

そもそも視覚障害者とは?

文字の通り、視覚に障害がある人視覚障害者と呼ぶわけですが、視覚障害者は必ずしも全く見えない(全盲)であるとは限りません。
視覚に関する疾病は多数あり、弱視視野狭窄、視界の歪みなど症状は様々です。

これらの場合は厳密に言えば何も全く見えない……というわけでは無いものの、文字を読むことが困難になるほど視力が低下したり、はっきり見えなかったりと日常生活に著しく不自由が強いられてしまう人は多くいます。
こうした人たちを近年はロービジョンと呼びます。

参考記事



障害者手帳の程度区分で1級及び、2級の合計が19万4千人*2に対し、ロービジョンは約145万人*3とも言われています。


視覚障害者というと、テレビ番組やドラマ・漫画などで取り上げられる事例では全盲の方が多く、どうしてもそうしたイメージが強いのですが実態としてはロービジョンも数多くいます。
何故こんなことをわざわざ書くかというと、私自身この点について視覚障害者の方々と接するまで誤解していた部分があったので改めて説明してみました。




少し脱線しましたが、再び調査報告書の内容に戻ります。

視覚障害者の利用するOSの傾向について

視覚障害者の利用するOSの傾向についての調査結果を抜粋していきます。
この設問への有効な回答数は287人とのこと*4

OSの種類 人数
1種類のみ 195
2種類 78
3種類 13
4種類 1
合計 287

利用時間が最も長いパソコンを1機種目とし、2番目以降を2機種に分けて集計されています。1種類のみを利用している人が195人、2種類は78人と続きます。


OS1機種目2機種目小計割合
Windows 71714021173.5%
Windows XP803311339.4%
Windows 816163211.1%
Windows Vista129217.3%

グラフは利用の10人以上利用者のいるOSを多い順に並べてみました。
調査時期が2013年であることを鑑みると、現在はWindows8, 10の割合が上がっているかもしれませんね。なお、Macは5人(1.7%)でした

スクリーンリーダーの傾向について

こちらも、利用時間の最も長いスクリーンリーダーを1位とし、2番目以降を分けて集計しています。有効回答者は252人。
10人以上の利用者がいるものをグラフにしました。

スクリーンリーダー1位2位合計割合
PC-Talker1892621585.3%
JAWS19274618.3%
95Reader1410249.5%
FocusTalk814228.7%
NVDA78156.0%
VDM101114.4%

高知システムのPC-Talkerが圧倒的なシェアで、2番手にはJAWSが続きます。
95Reader(XP Reader)は名前の通りWindows Vista以降には対応していないこともあって、利用者は減少していくでしょう。そしてFocusTalkに次いでオープンソースのスクリーンリーダーであるNVDAが並んでいます。ちなみにVDMシリーズはPC-Talkerをカスタマイズしたものです。
利用者が10人未満のスクリーンリーダーではVoiceOver(Mac)が3人(1.2%)、ナレーター(Windows8以降)が2人(0.8%)でした。


Macは利用者が少ないのでさておき、Windows8以降標準搭載されたナレーターやNVDAは2013年頃から比べると使いやすくなってきたので今後シェアを伸ばしそうですね。

Webブラウザの傾向について

Webブラウザについては利用傾向が全盲者と、ロービジョン者では異なる結果なので分けて表示します。
利用しているWebブラウザについて、複数回答ありです。

全盲
Webブラウザ人数割合
NetReader9259.0%
Internet Explorer8655.1%
SearchAid159.6%
Firefox85.1%
ホームページ・リーダー85.1%


ロービジョン者
Webブラウザ人数割合
NetReader2337.1%
Internet Explorer3962.9%
SearchAid23.2%
Firefox46.5%
ホームページ・リーダー11.6%

Internet Explorerについてはバージョン問わずに換算してあります。もちろん単独では音声読み上げ機能はありませんが、多くのスクリーンリーダーではIEでWebページを閲覧する際でも連動して読み上げを行うため、利用が多いのでしょう。
NetReaderは同じ高知システムのスクリーンリーダーPC-Talkerと組み合わせて使うタイプの音声ブラウザで、全盲者で高いシェアを誇ります。ただし、有料なこともあってかロービジョン者では利用は少ないようですね。
SearchAidWebブラウザというより、検索補助ツールといった面が大きいソフトウェアです。こちらも有料ではあるものの比較的安価な点、また利用目的が特化されていることも利用者が少なくない要因でしょうか。ただWeb制作者側からするとWAI-ARIAに未対応なのはともかく、img要素のalt属性ですら読み上げないのでかなりツラい仕様なのですが……。
Firefoxは晴眼者でも使うので説明不要ですね、IBMホームページリーダーについてはWindows Vista以降のサポートをしないことから、利用者は徐々に減っていくでしょう。

まとめ

以上、研究報告書の中でスクリーンリーダーとWebブラウザに関する項目だけを抜粋しました。
調査時期が2013年とやや古いため、現状は少し異なっている可能性はありますが、とても興味深い研究報告だったかと。調査結果を見るとWindows利用者がかなり多く、またPC-Talkerの圧倒的なシェアが目立つものの、Windows8以降にはナレーターという標準搭載のスクリーンリーダーがありますから、今後の状況の変化は気になるところです。


また、今回抜粋した内容はこの研究報告書のほんの一部で
視覚障害者の携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコン利用状況調査2013 - 新潟大学学術リポジトリ
タイトルの通りスマートフォンタブレットに関する利用状況の調査結果もあり、なかなか面白い内容ですからそちらもお薦めです。

補足や蛇足

この記事は、元々もう一つの私のブログ「週刊SVG」での記事で書こうと思っていた内容なのですが、長くなってしまったので分割して書いた次第です。

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*1:この資料については以前@wada_2tomさんに教えていただきました https://twitter.com/wada_2tom/status/611657609595072512

*2:参考:http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa.html

*3:参考:社団法人 日本眼科医会の調査結果(※PDF)

*4:設問ごとに回答数は多少前後します。